「理と情のバランス」の話です。
人間は合理的な説明を聞くと、頭でその内容を理解します。ただし、感情面で腹落ち
していないと動けません。感情面で大いに共感していても、合理的な説明ができないと、
その内容を第三者に伝えることができません。「理」と「情」の両面を充たす
アプローチを心得ていないと人を動かすことはできないのです。
先日、優秀な学生たちを対象に「体験型ケーススタディ:Organization Theater」の
半日版をやりまひた。とある課題に対して、利害が対立するAさんとBさんの話を聞き、
その上で最善策を提案するというものです。
意思決定者へのプレゼンテーションの場にその利害が対立する2名が同席することに
なりました。まずはAさんが登場。遅れてBさんが会議室に現れます。BさんはAさんが
会議室にいることに気づき、態度を硬化させます。そこを意思決定者がBさんをとりなし、
プレゼンテーションが始まります。
プレゼンの内容はそんなに悪くはありませんでした。話し方、構成など稚拙ですが、
同世代の若者としてはトップクラスだと思います。しかし、プレゼンテーションは
すべて「×」。合計8チームが臨みましたが、いずれもAさんかBさんが立腹して
離席するという事態に展開して終わりました。
終了後に学生たちに聞いてみました。
“なんで、Aさん(Bさん)があそこまで怒ったと思う?”
彼らの彼女ら答えはいずれも自分たちの「説明内容」に非があったというものでした。
確かにそうです。彼ら彼女らのストーリーはAさん、またはBさんの意見を指示する
という単線思考でした。
最終的に目指すことが同じであっても、その過程において利害が対立する場合には、
すべての利害関係者の目線から考えて、建設的な妥協へ導くファシリテーションが
必要。この考え方を「Paradox thinking」と言いますが、この視点がありませんでした。
これある意味で致し方ありません。学生時代は「正解」を問われ続けてきていますから。
しかし、世の中で大きな仕事をしたいのであれば、これではいけません。単線思考だと
正解のない世界では活躍できないとお話ししました。
しかし、本質的な問題はこの点ではありません。Aさん(Bさん)が大激怒するに至った
根本的な原因は別にあります。内容は「理」の側面です。彼ら彼女らに「情」的側面が
欠けていたこと。それが原因です。
まず、プレゼンの冒頭に「導入の場づくり」がありません。導入の場づくりとは、
本論に入る前にその場にいる人たちの波長を合わせる行為です。波長を合わせることで、
精神的な相互の距離感が縮み、物事が進みやすくなります。
学生たちはAさん、Bさんそれぞれの話を事前に聞いています。顔見知りになっている
のです。ところが、プレゼンの場にAさん、Bさんが現れても、“さきほどはありがとう
ございました”というような声掛けはおろか、会釈すらしないのです。
しかもBさんが会議室に入った瞬間にAさんの存在を見つけて態度を硬化させているときに、
Bさんへの声掛けがありません。Bさんからすると、数時間前に会った人間がきわめて
他人行儀な態度でその場に存在し、かつ一方的にAさんの肩を持つような提案をされた
のでは“裏切られた!”という気持ちになるのは当然です。Bさんが怒鳴ったのは
これが背景です。
プレゼンの間中、Aさん、Bさんは表情や態度で「不満」を表現していましたが、
学生たちがそこに気づかず、一方的に自分たちのペースで話し続けたことが怒りの
ボルテージを上げました。
波長合わせは相手に対する配慮・ケアです。あなたのことを大事に思っている。という
シグナルにもなります。それなしに一方的に説明しても「言葉」のやりとりだけになり、
ささいな言葉でネガティブに反応されがちです。さらに、相手が発する言葉以外の
感情表現を察して動く。ここが「情」的側面です。
一部のチームがBさんからひどく怒鳴られました。“こんなに怒鳴られたことはない”と
言っていましたが、怒鳴られたことで目が開き、染み入るようにフィードバックを聞いていた
ように思います。この手のことは自分で“しまった!”と思わないと学べないので。
記憶に残る半日になったことでしょう。
おまけー1:台風の最中、琵琶湖付近へ移動。ひかりで米原で下車。琵琶湖線は案の定
「調整中」で止まっていました。が、ホームに降りた1分後に発車。(行いの良さが反映)(^_-)
おまけー2:宿泊先の部屋のお風呂に「追い焚き」「保温」「お風呂」の3つのボタンあり。
「お風呂」を押したところ、湯船に水はつかったのですが、ぬるくて入れず。「追い焚き」を
押したところ、グルグルギューンとデカい音がして、大量のお湯が出てあふれました。
しかも激熱。正解はなんだったんだろう。
おまけー3:組織がバラバラだと何をやってもうまくいきません。
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