社員の給与を「上げたい」と思うか、「上げたくない」と思うか。
90年代後半、私がマーサーのコンサルタント時代はこうでした。外資系企業では、
いかに社員の給与を上げるかが課題、国内企業では、いかに上げないかが課題でした。
最近は変わってきましたね。私のお付き合いのある企業では、ほとんどが「上げたい」と
言っています。これは良い傾向と思います。(ただ、押しなべて上げたいのではなく、
一部の優秀な社員の給与を上げたい、とのことですが。)
デービット・アトキンソン氏の「国運の分岐点」(講談社+α新書)を読みました。
日本の諸問題の本質について、わかりやすく説明しています。詳しくは同著を読んで
いただくこととして、アトキンソンさんによると過去20年間(1999~2018年)で、
米国や英国の給料が約1.7倍になっているのに、日本は約7%減少しているそうです
。それが日本の生産性低下の要因であると。給与を上げたいと考える経営者が
増えてきているのは、良い傾向だと思います。
給与の設計にあたり留意すべき点として、1990年代まではこう語られていました。
「生活保障の原則」と「労働対価の原則」を意識せよ。つまり、食えない給与水準に
してはいけない。社員のライフサイクル、年齢、家族の数などを意識せよ。
その上でやったらやっただけの給与がもらえるようにしなさい、というものでした。
その後、21世紀になり、グローバルな観点、転職市場の発展に伴い、留意すべき点が
変わってきました。この頃から言われてきたのが「内部公平性」と「外部競争力」です。
社内で同じような仕事をしている人であれば、みな同じような給与水準であるべし。
職務給の発想です。外部競争力とは、社外で同じような仕事をしている人の相場と
比較して、同等以上に設定しておくべしということ。さもないと他社と比べて競争力がなく、
転職されてしまう、というものでした。
さらに、2010年ころには「希少性」が注目されてきました。属人的な要素だが、
余人をもって代えがたい力を持っている人については、その希少性を評価して加算せよ、
というものです。
この中の「外部競争力」を確認するための給与マーケットなるものが日本においても、
それなりに定着しつつありますね。米国はさらに先に行っています。企業の名前と
ポジション名をインプットするとその報酬額が表示されるというアプリまであります
。ちなみに、2020年4月からの同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)は
内部公平性の思想によるものです。
先日、堺の工業地帯を訪問する機会がありました。ここには日本の多くの大企業を支える
施設が軒並み建っています。まさに日本の足腰の地域です。巨大な施設に関わらず、
30名程度で24時間体制で稼働させていると聞きました。それができるオペレーションが
確立しているのです。
この人たちの仕事は、いわば日本の保守。その業務が停滞すると日本中のあらゆる事業、
インフラに影響が出ます。それだけの仕事をしてくれているのですが、給与はそれほど
高くはないのだろうと推察しました。表面的な成果主義をベースに評価処遇してしまうと、
保守業務系の人は“割負け”してしまいます。ミスなくやって当たり前、何かあったら
減点です。上振れがありません。
こういう業務の方々に報いる仕組みを設けるべきだと思いました。例えば、
「2年に一度1か月の有給休暇の付与」とか「(長期勤続で加算される)第二退職金」です
。毎年の成果云々ではなく、一定のクオリティで働き続けてもらうことを評価し報酬するのです。
組織が多様化する以上、人事制度も多様化すべし。職種に応じて処遇を変える。
柔軟な人事制度を設計し、運用する時代です。
おまけ―1:英語は勉強するものではない、トレーニングするもの。
このコンセプトからつくってみました。
https://indigoblue.co.jp/pickup/aspire-global/
おまけー2:最近のタクシー広告はあまりにも同じ展開が多いです。
“課長、問題です”“え、なになに”
“*をやってみませんか?”と変なポーズ。課長もそのポーズ・・・。
さすがに食傷気味。こうやって一般顧客の目線がそのメディアから離れます。
(焼き畑プロモーションですね)
おまけー3:自宅近くの著名チョコレート店が混んできました。
大量に高額チョコレートを買うおば様たちが大行列。
その中でポツンとレジの列に並ぶ私。強烈なアウェー感とはこういうこと。
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